zen3_amd

自作PC界隈では、圧倒的な性能を誇るZen 3が人気となっていますが、未だ品薄で手に入らない事が多いです。管理人はなんとか中堅モデルの5800Xを手に入れて性能をチェックしました。
(※2021年3月以降、在庫は回復傾向です。)

■5800Xをテストして思ったこと

・性能
申し分なし。
シングルスレッド性能は上位の5950X/5900Xに迫ります。
マルチスレッド性能も10コアの10900Kと並ぶレベルです。
Photoshopなどの速度は現時点最速を叩き出しています。
Google OctaneやMozilla Krakenなどのスコアも最高で、実用上は「最も快適な」CPUかと思います。

・価格
8コアCPUとしては高めの価格です。
ただし、過去の1800Xや3800Xのようなプレミアムモデルであるので、高いのは仕方ないと思います。
1700(X)や3700Xのような位置付けのモデルが出ることを期待しています。

・消費電力
TDP105Wの場合のAMD既定値の140W程度に収まります。
インテルの上位シリーズのように、パワーリミットなしの状態で200Wを超えるCPUとは異なり、VRMへの負荷も少なめなので、安価なマザーボードでも問題ないと思います。

・発熱
実はこれが最大の欠点…
Cinebench R20など、全コアに負荷がかかるアプリを使用するとCPUの温度が85℃以上になります。
一応、RyzenのCPUは95℃までは安全とされているので、故障のリスクは低いと考えられますが、やはり精神衛生上は良くない温度です。

・5800Xが熱い理由
5600Xや5900Xは高くても70℃前後で安定するのに対し、5800Xはしばらくすると85℃以上になります。この違いはなんでしょうか?

5800Xに限ったことで、CPU温度を大きく上げる要因といえば、140W近い発熱が7nmの小さなCPUコアに集中しているということが挙げられます。

5800Xとは対象的に5900Xは12コアもあるのに、高負荷時の温度は70℃程度と低めです。
5900Xの場合は、2つのダイに負荷が分散しているため、電力制限値が140Wであっても、1つのダイ当たり平均70Wまでとなるため、5800Xと比較すると発熱が分散されます。

5600XはTDP65W(PPT:電力制限88W)と元々低めの設定となっているため、当然ながらダイサイズが5800Xと同じ5600Xは熱くならないというわけです。


・温度を下げる方法
温度を下げる方法として、以下の方法が考えられます。

1. クロック、電圧を固定する
一般にはオーバークロックと呼ばれる行為ですが、5800Xにおいてはデフォルトの全コア負荷時のクロックが4.5~4.6GHzと高めなため、どちらかというとダウンボルテージ(電圧下げ)に近い印象です。
なぜ電圧を下げるかというと、負荷が重くなるときの電圧変更による温度スパイクをなくすためです。
5800Xに限らず、3900Xや3950Xが瞬間的に熱くなるのも、こんな理由だと思います。

・低負荷時の電圧は1.4~1.5Vと高め
・負荷が重くなる時に電圧を下げる
・しかし、ラグによって1.4~1.5Vの高電圧状態と高負荷状態が重なる
・高負荷がかかった瞬間のみ温度が90℃近くまで上昇する
・一旦安定すれば70~80℃で推移

ただし、シングルスレッド性能が低下するのが欠点です。


2. 電圧をマイナスにオフセットする
Zen 2から使われていた手法ですが、CPUコアの電圧設定値をOffsetモードでマイナスにするのも効果的な方法です。
ただし、今回使ったマザーではその設定ができず…


3. 電力制限値(PPT値)を低めに設定する
140Wを7nmのちっちゃいダイで実現するから熱くなるんだ、ということで、140Wを例えば100Wに下げれば発熱を抑えられるのではないかという話です。

以下は、一部検証結果を含みます。

まず、PPTの最小値と最大値についてですが、
PPTの最小値:30W
PPTの最大値:145W

最小値については、29W以下になるとPPT値を無視してCPUパッケージの消費電力が30W以上となってしまうため、実質的には30Wが最小値となります。

最大値については、145Wを上回る数字を入れても、145Wの場合とスコアやクロックが変わらないため、145Wが最大値となります。

TDCとEDC(電流制限値)については、テストにおいてボトルネックとなることを避けるため、今回はなるべく大きい値として300Aに設定しました。
今回の検証で得られたTDCとEDCの最大値は以下のとおりです。
これより大きい値を入れてもおそらく結果は変わらないと思われます。

TDCの最大値:92A
EDCの最大値:155A

※TDC(Thermal Design Current Limit)…VRMの発熱を想定した電流制限値。電流の平均値に近い。
※EDC(Electrical Design Current Limit)…VRMが負担できる電流の最大値を想定した電流制限値。電流のピーク値に近い。


■検証結果
60W以上であれば、PPT制限値の変更は大きな効果があります。

結果は以下のとおりです。

PPT Power CB20 pts/W Temp Tdie TDC EDC Clock Voltage
W Package Core  SoC pts C C A A MHz V
150 144.598 129.672 14.926 6055 41.87 88.0 88.8 91.885 154.561 4550 1.325
145 144.216 130.995 13.221 6036 41.85 88.0 88.5 91.686 154.567 4527 1.313
140 140.357 126.710 13.647 6050 43.10 86.6 87.0 89.275 153.013 4533 1.309
135 135.266 122.045 13.221 6044 44.68 84.0 84.5 86.692 149.282 4522 1.288
130 130.185 116.538 13.647 6031 46.33 81.9 82.0 83.908 144.589 4503 1.275
125 125.185 111.538 13.647 5979 47.76 79.4 80.0 80.962 140.365 4486 1.254
120 120.168 106.521 13.647 5983 49.79 76.3 77.5 78.148 136.627 4479 1.237
115 115.157 101.083 14.074 5924 51.44 74.3 75.3 75.246 131.805 4454 1.218
110 110.152 96.931 13.221 5902 53.58 72.0 72.5 74.353 127.963 4420 1.196
105 105.169 91.522 13.647 5832 55.45 70.1 71.3 69.451 124.433 4356 1.176
100 100.139 86.492 13.647 5741 57.33 67.6 69.3 66.149 117.567 4297 1.156
95 95.132 81.911 13.221 5697 59.89 66.6 71.0 63.096 113.814 4248 1.136
90 90.130 75.630 14.500 5602 62.15 67.3 69.3 59.771 114.179 4198 1.116
85 85.114 71.040 14.074 5513 64.77 67.9 73.8 56.460 105.019 4135 1.090
80 80.112 66.465 13.647 5409 67.52 65.6 69.8 53.259 100.098 4059 1.065
75 75.108 61.034 14.074 5305 70.63 67.9 70.8 49.753 97.194 3980 1.038
70 70.096 55.596 14.500 5206 74.27 65.1 70.0 46.306 96.940 3884 1.008
65 65.094 51.447 13.647 5019 77.10 64.9 71.8 42.586 83.810 3773 0.979
60 60.085 46.011 14.074 4836 80.49 63.5 73.3 38.882 77.339 3630 0.944
55 55.301 39.522 15.779 4292 77.61 63.6 72.0 33.986 89.275 3232 0.931
50 50.091 36.444 13.647 3592 71.71 60.4 69.8 28.661 62.042 2686 0.931
45 45.263 31.189 14.074 2930 64.73 56.5 67.8 23.535 71.371 2255 0.923
40 40.194 26.973 13.221 2220 55.23 47.0 58.5 18.181 57.858 1727 0.919
35 35.308 21.661 13.647 1474 41.75 46.6 54.0 12.782 38.552 1210 0.919
30 30.193 17.399 12.794 705 23.35 39.5 41.3 7.409 20.608 592 0.910


cbr20+coretemp

clock+voltage

performance_per_watt

検証環境
・CPU:AMD Ryzen 7 5800X
・マザー:MSI MEG X570 UNIFY
・メモリ:G.Skill Trident Z Royal 4266C19 2×8=16GB
(検証ではDDR4-3600 CL14-15-14-28として使用、サブタイミングも詰められるだけ詰める)
・クーラー:Corsair H115i RGB Platinum
・SSD:Seagate FireCuda 500GB
・電源:Cooler Master V1300


■おすすめの設定
・120~125W
CPU温度が80℃前後に落ち着いてくれるので、夏場でも問題なく使えると思われる設定です。
空冷でも問題なく使えると思います。

・90~95W
CPU温度がかなり低く、消費電力も目に見えて低くなる割に性能低下が小さいため、バランスが良くお勧めな設定です。システム全体のワットパフォーマンスを考えるとこの辺がベストです。

・60W
CPU単体のワットパフォーマンスを考えた場合に、スイートスポットとなる電力値です。
ただし、性能は4800ptsで3700Xとあまり変わらない結果となってしまうので、わざわざ5800Xでこの値にするかと言われると微妙な感じに…

5800Xに限った話ではないですが、Ryzenの場合はだいたい65Wを下回ると急激に性能が低下し、ワットパフォーマンスも悪化する傾向があります。
Ryzenは内部バスや内蔵メモリコントリーラ(IMC)の消費電力がそれなりにあるため、あまりにも電力制限を厳しくしすぎると、コアに割り振れる電力が小さくなりすぎてしまいます。
なので、あまりにも下げすぎるのは禁物ということです。
(インテルの場合は、内部バスやIMCの消費電力がRyzenより低いため、30~40W辺りがスイートスポットとなる傾向がある)
また、OCメモリを使ってアンコア電圧を上げたりすると、IMCや内部バスの消費電力が多くなるため、より低電力設定下での動作が厳しくなります。何事もバランスが大事です。

また、5800Xの場合は電圧が0.9Vよりも低くならないというのも、60W以下でワットパフォーマンスが悪化する要因と考えられます。電圧が下がらないためクロックを下げるしか電力を減らす方法がなくなってしまいます。


■結論
Ryzen 7 5800Xのデフォルト状態の温度が高いということで、かつての7900Xや9900K、10900Kの爆熱な評価を受けないか心配ではありますが、若干設定をいじるだけで発熱がかなり緩和されて性能低下も小さいため、PPT制限値の変更はおすすめできると思います。

性能や価格帯は「つよつよな9900K」というイメージなので、マルチスレッド最適化が不十分なゲーム、Photoshop、x264エンコードなどの分野では最強クラスに性能を発揮できると思います。
(ちなみに5800Xは60Wでも9900K並みのスコアを叩き出す。7nm&Zen 3の力恐るべし)

そんなのめんどくさい、ゲームやらないという人は、12コアあって発熱も5800Xより穏やかな旧世代のRyzen 9 3900Xの方がいいかも知れません。


以上